赤い女のビラ/禍話リライト

怖い話・怪談

仮にA君としておきましょう。

大学生のA君の話なんですけど、彼、コンビニでバイトしてて、大学の仲間以外にもコンビニでのバイト仲間もいる。
そういう結構元気な奴で、お酒なんかも強いような奴でね。友達も多いんですけど。
そんな奴にもやっぱり、怖いことって起きるんだなっていう話なんですけどね。

写真AC

彼ね、安い学生用みたいなマンションで暮らしてたらしいんですけど、入り口に集合ポストがあるんです。
ある日の朝ね。「あれ?」って思ったんですって。
住人全員分のポストに何か紙が挟まってるんですよね。
それがね、パッと見でもう、ピザ屋とか引っ越し屋みたいな業者のチラシじゃないってわかったんですよね。
「何だこれ?」って。
手書きの便箋が入ってたんですよ。
でね、何かのお知らせかもしれないってA君見てみたんですって。
彼曰く、百円ショップで売ってるような安い便箋だったらしいんですけど、そこにね、びっしりと書いてある。
ほとんどひらがなだったらしいんですけどね。句読点ほぼない感じで書いてある。
内容はね、あくまで彼の記憶を頼りに書くとこんな感じになるそうです。

あかいおんなにきをつけてくださいいんたーほんをしつようにおしてきたりのっくをしつようにしてくるぜんしんまっかなじょせいにはちゅういしてくださいそのおんなはつきあっていたかれしにむごたらしくころされたおんなではんにんのかれしをさがしていますどあをあけてしまったらかくしもっているはものでころされますたいしょほうはれいかんのあるともだちにきてとたのんできてもらうしかありませんだからあかいおんなにきをつけてください

って書いてあったそうです。
「え!何、気持ち悪い…」って隣の人のも見たんですよ。
ほとんど同じ感じで書いてあるんですけど、何がすごいって、全部印刷じゃないんですよ。全部手書きなんですって。
何か、ボールペンかなんかで書かれてる。
だから、若干言い回し変わってるんですけど。
「えー、気持ちわりいなー」
もう当然、集合ポストのゴミ箱にバーンって便箋を捨てた。

まぁ、集合ポストの所に監視カメラがあるんでね。
このマンション安いくせにあちこち監視カメラがあるんですよ。何か昔、ゴミの不法投棄とかがあったらしくてね。
だから犯人も写ってるだろうし、続くようなら管理人さんに言えば良いかって思ってて。

で、三日後ですよ。
だいたい他の住民も捨てたらしいんですけど、朝見たらまた入ってるって言うんですよ。
また同じ。百円ショップで売ってるような便箋をバッて見たら…

あかいおんなにきをつけてください

「うわっ!また入ってる…」

それからね。三日と言わず、定期的に入るようになった。
全員が捨てた時くらいに入るようになってね。

で「これ周りもやられてるんかな?」と思って。
近くに住んでる後輩とか、友達とかにそれとなく聞いてみたんだけど、聞いたこと無いって。
後々わかったんですけど、A君の住んでるマンションだけだったらしいんですよ。この便箋というか、ビラが入ってるのは。
「えー…」と思って。
流石にね、何人か女性とかも住んでますから。管理人というか、管理業者に連絡が入ったんでしょうね。
もう定期的にビラが入るようになってからすぐに、でっかくね、これ見よがしな感じで
『ビラや意味不明な勧誘はやめてください』って貼ったんですって。
元々、小さく貼ってあったんですけど、それをもっとでかくしたような、警告文みたいなのが貼られるようになった。
『ちゃんとカメラで撮影しています』みたいな事も書いて。

でね、A君。翌朝すごく早く家を出る用事があったんですって。六時くらいに出て。
それで、ふと集合ポストの方を見たら、警告文のポスターがビリビリに破られて捨てられてたんですって。
で、便箋がバーって入ってる。
(間違いなく便箋入れてる奴がやったに違いない。カメラにはっきり写ってると思うんだけどなーこの角度なら。
これ、いたちごっこだなー)って思った。

それから、相変わらずまたビラが入って、警告文のポスターが貼られて、また破られてって事があって、それが続いて…。
一週間か二週間くらいした時、『こういう女性を見かけたら、すぐに管理業者、
もしくは警察、最寄りの交番に連絡してください』って書いてある張り紙があった。
(あ、やっぱりね、監視カメラあるから写ったんだ!そうか)
(ちょっと見とこう)って画像を見たんだけど「あれ?」ってなった。
お話した通り、集合ポストに丁度いい角度で、入れてる奴の顔が写るような監視カメラあるんです。
なのに、そこの映像は使われてなくて、マンションの入り口?くらいの映像が使われてて。
女は写ってるんですけど、後ろ姿なんですよ。
後ろ姿だったらこれ、全然わかんないじゃないですか。
(なんだコレ。意味ねーな)と思って。
何か、若干ボケててよくわからない。
『どうやら、女は全身真っ赤な服を着ているようだ』みたいな。
まぁ、女かどうかも、後ろ姿だからね。『髪は長い』くらいしかわからなくて。
(何だこれ?変なことするなー)って思った。

それをね、コンビニのバイト先で休憩中に話したんです。
そしたらね、「それって、あれじゃないですか。多分、ポストの所で設置してるカメラで顔は撮れたんだけど、問題がある感じだったんじゃないですか?」って。
「怖いこと言うなよ…」ってちょっとビビッちゃったりして。
で、仲間内で盛り上がったらしいんですよ。
「この人だけマンションでそういう目に遭って、家賃ちょっと安いじゃないですか。他と比べて」
「呪われたマンションだ!」「やめろよw」なんて言って。
夏が近づいた事もあり、怖いネタとして盛り上がったんですよ。

でもねー、盛り上がるのは良いんだけどもA君、若干不安で、
(言われてみれば確かに何で後ろ姿なんだろう?)って思った。

おまけにビラの内容もね、ああいう文章の後に、

あかいおんなはいよいよこのマンションにねらいをさだめているとわたしはいっているのです

みたいな事を書いてあるって言うんです。
(うわー…『いよいよ』ってやだなー)って。

で、堪りかねて周りに話した。
「え…マジで怖いじゃないですか。警察とか動かないんですかね?」
言われてみれば、確かに、
(この辺前はそうでもなかったのに、制服警官がぐるぐる歩いてるのはそういう事かな?)なんて思った。

で、それから何日か経った後に、コンビニのバイトの連中で集まって飲んだんですって。
ベロベロに酔っ払って、その仲間内の女の子が
「えー、その怖い狙われてるマンション行きたいなー」って、変なテンションになって。
A君も「行く?そのマンションw」ってよくわからないテンションになって。
その時はお酒、結構入ってたんでA君若干、気が強くなってて。行くことにしたんです。
皆に「ちょっとね、外観だけでも見てってやってくださいよw」みたいな。
「よくわからん漫才師の、『名前だけでも覚えてやってくださいよ』みたいになってるぞ」
とか突っ込まれながら。

写真AC

マンションの前に到着してね。外からでも結構見えるんですよ。
「あそこの、四階のあの部屋が俺の部屋で…」
「ああ、そうなんすかー」
「外廊下があって…」って言ったくらいで皆、「あれ?…外廊下、誰か…歩いてますね…」って。
「ああ…歩いてるね」
「住人じゃないの?住人」とか言って。
どんどん近づいていくんですけど、その外廊下歩いてる奴、右から左に歩いて、
また左から右に歩いてってどこの部屋にも入って行かないんですって。
(え?え?)
どんどん近づいて行ってわかったんですけど、上半身がちらっと見えて、
(どうやら赤い服を着てるっぽいぞ。あれ?髪が長い…え?)
(これ、ヤバくないか?)って思った時に、一人、何て言うんですかね。酔ったテンションなんですかね。
銭形警部みたいな感じで、「待て待て~い!」って言って走って行っちゃったんですって。A君のマンション一直線に。
周りもA君含めて「バカバカバカ~!」って慌てて追いかけたんだけど、そいつ結構足が早くて追いつけない。
そこで四階に行くには、階段一箇所とエレベーター一つしか無いんですよ。後は非常脱出装置みたいなのしか無いんで。
もう階段とエレベーターしか無い。階段をガンガンガンガンって上がって行って、
「この野郎~!捕まえてやるぞ~!」って言って。
「やめろ!やめろって!」
周りも「幽霊じゃないだろうけどヤバい奴だって!」「刃物とか持ってたらどうすんの!ヤバいって!」
ってガンガンガンガンって追って行った。
で、登りきって四階に着いちゃった。
先に着いた奴が「この野郎~!とうとう…あれ?」ってなってるんですよ。
後から来た奴らは「『あれ?』って何だ?」って。
そのマンション五階建てらしいんですけど、先に行った奴が、わざわざ五階まで行って、フロア見ながら階段で降りてきたんですよ。
その間エレベーターは全く動いてないんですよね。
行って、降りて来て、さっきまでベロンベロンでね、銭形警部的な感じだったのに、そいつね。
「誰もいませんよ」
「誰か降りて来ました?」って。
周りは「いやいやいやいや、誰も降りてないよ」って。
追っかけてきた皆が言うには、丁度マンションの入り口に来るくらいに四階が見えなくなるんだけど、
それまでギリギリ居たって言うんですよ。外廊下に。
だから絶対鉢合わせしてると思ったんですよ。でもね、いないんですよ。
で、このマンション、ドア閉めるとバーンってでかい音がするんで、どこかの部屋の住人で入ったならわかる筈なんですけど、
一切そんな音してない。夜の夜中です。
「えー!」ってなって。皆で捜索したんですけど、どこにも居ない。
散々捜して、やっぱりいませんってなった時に、結構冷静な感じのクールな奴がぼそっと「え、マジでお化けなんすか?」って。
皆シーン…。
酔が冷めて皆「じゃ、帰ります」ってなって。
「お、おい…ちょ、ちょっと…」ってA君が引き止めたけど皆帰っちゃった。

それから皆ね、同情してる感じになってね、何かバイト先の店長の奥さんが信心深くて、お守りとかくれたり。
「今度お寺とか、お祓いとか行ってみる?」って言ってくれたりして。

それからしばらくして、コンビニのキャンペーンか何かで繁忙期になって、すごい忙しかったんですって。一週間くらい。
もう、フラフラで。毎日きついシフトで入ってて。帰る時間も深夜帯になって。
夜、A君がその日帰って来たのが深夜1時か2時くらい。
その時はフラフラですっかりビラの事は忘れてたんです。赤い女の事も。

写真AC


あまりに疲れてたもんだから、廊下の四隅がいつもより暗く見えたりして。
ボロボロでエレベーターに乗って上がって、四階で降りて。
ふと思ったんですけど、廊下の電球がね、前からチカチカしてたんですけど、何か、奥の電球が切れてるって言うんですよ。
だから暗いんですって。
(あー、これ管理業者に言わねぇとなー)って思って。
自分の部屋、2号室なんですけど。さあ、帰ろうっていっても疲れ切ってるでしょ。
だから、なかなか鍵が入らないんですって。何か開かないなと思ったら別の鍵だったりして。
それでガチャガチャしてたら外廊下の方から、
「赤い女に気をつけてください」
「え?」って振り向いたら、真っ暗な中にね、女の人がね、座り込んでるって言うんですよ。
(うわ!)って思ったら。
「インターホンを執拗に押してきたり、ノックを…」
って言いながら立ち上がったんですって。
「執拗にしてくる、全身真っ赤な女性に注意してくださいって言ってました」とか言ってるんですよ。
確かに、真っ赤な服着てこっちに歩いて来る。
「その女は、付き合っていた彼氏に惨たらしく殺され…」
でもね、その女、急いでないんですって。
普通のゆっくりスピードで来るんですって。
だから急いで鍵を開ければ間に合うんですけど、焦ってるから変な感じになって、一度開いたのに閉めちゃったりして。
で、焦ってガチャガチャしてるうちに、どんどん来るんですって。
「ドアを開けたら、隠し持っている刃物で殺されます。隠し持っている刃物で…」
ふと見たらその女、左手を後ろに回してるって言うんですよ。
「うわー!!」って、ギリギリでドアが開いて、バン!って閉めた。
鍵かけて、チェーンも一緒にかけて「うわ!なになになに!通り過ぎてくれ!通り過ぎてくれ!」
って思ったら、通り過ぎないんですって。
2号室の前で、ピンポーンピンポーンピンポーンってインターホン鳴らして、ドアを叩き始めて。
ドンドンドン、ドンドンドン、ドンドンドンドン
(ひえ!怖い!怖い!何なんだよ!おい…)と思って。
「対処法は!霊感のある友達に来てと頼んで、来て貰うしかあなたが助かる道はありません!!!」とか言ってる。
ピンポーンピンポーン、ドンドンドンドン
(ちょ、ちょっと!怖い怖い怖い!)
その時に、気づいたんですよ。
(あの女、刃物隠し持ってるなら、インターホンは右手で鳴らすとして、どうやってドアをノックしてるんだろう?)
って一瞬、思ったらしいんですね。
で、覗き穴でちょっと見たんですって。

顔は幸い見えなかったらしいんですけど、その女、顔とか肩とかを使って
ドンドンドンドンってやってたんですって。
そんな様子を一回見たから(うわー!いや、もう怖いー!)ってなって。
で、ずっとピンポーンピンポーンピンポーン、ドンドンドン、ドンドンドンドン
「赤い女に気をつけてください!!インターホンを執拗に押してきたり…」
(うわー、怖い怖い怖い…)っていう状況が続いた。

で、途中くらいから薄々思ってたらしいんですけど。
夜中、深夜1時、2時とは言え、これだけインターホンを押してノックされたら、
誰か起きてくるものじゃないのか?って。
でも、誰も起きてこないんですって。そんなわけないんだけどね。
ピンポーンピンポーンピンポーン、ドンドンドンドン
「その女は!!付き合っていた!!信じていた彼氏に!!惨たらしく殺された女で!!
犯人の彼氏を捜しています!!可哀想な女です!!」

ドンドンドンドン、ピンポーンピンポーンピンポーン
「ドアを開けてしまったら!!隠し持っていた!!果物ナイフで!!」
(果物ナイフって言ってる…怖えー…)
ドンドンドンドン、ドンドンドンドン
「対処法は!!霊感のある…」
(あ、そうだ!霊感のある友達だ!)って思った。
ただ、霊感のある友達っていないんですよね、A君。
(どうしよう…!)って思ったけど。
「来てと頼んで!!来て貰うしか!!あなたが助かる!!術はもう無いんですよ!!」
ドンドンドンドン
仕様がないので残酷な話なんですけど、一番近くにいる後輩に電話して
「おう、俺だけどさ。こんな時間に悪いけどさ。今から来れる?」
「何ですか?」
「今から来てくれよ!」って切ったんです。
(もう、こいつだけが頼りだ!)って思いながら。
「対処法は!!霊感のある友達に!!来てと言ってきてもらうしかありません!赤い女に気をつけてくださ…』

《ピンポーン》

途中でインターホンが鳴ったら声が止んで、恐る恐る覗き穴を覗いたら、さっき呼んだ後輩なんですよ。
「え?」ってドア開けたらそいつなんですよ。
「なんすか?」って。
「今さ、どうやって来た?」
「どうやってって、エレベーターで来ましたよ」
「誰か居なかった?」
「いや、誰もいませんよ。あのね先輩、今、2時近くですよ?いるわけないじゃないですか。なんすか」
A君は呆然としながら言った。
「あのさぁ、お前、霊感あったんだな」
「何言ってんですか先輩、気持ち悪い。何ですかこんな時間に」
「あ、うん…そのさ…」って冷蔵庫にあった適当な、ちょっと高いお酒あげて
「これを急にお前と飲みたくなったんだ」
「先輩気持ち悪いっすよ」って、飲んで貰って早々に帰したらしいんですけど。

で、飲んでる時
「先輩、何かあったんですか?」って言われて
「本当に来る途中、誰にも会わなかったか?あ、そうだ。お前に電話した時もさ、後ろ五月蝿くなかった?」って聞いたら
「いや、先輩の声だけですよ」って。

それからね、変な話、ビラが来なくなったって言うんですよ。
周辺にもビラの話一切無くなって、なんだったんだろう?って。

で、コンビニの仲間内では「あいつは霊感があった」ってオチでゲラゲラ笑ってたんですって。本人は笑えないですけどね。
気持ち悪いじゃないですか。体験した本人は正直危なかったと思うんです。
でもまあ、A君は皆が喜ぶならまあいっかって感じでね。思ってたんです。

でね、その後にこんな話も聞いたんですよ。

今はね、そのバイトも辞めて、違う所にいるんですけど。
インターネットでたまたま都市伝説について検索してたら、掲示板に似たような書き込みがあったんですよね。
都市伝説だから、似たような話を聞いたり、体験したりした人がいるかもしれないけど、書き込みの仕方が…。

れいかんのあるひとにきてといってきてもらってください

って書き込んであるらしいのね。掲示板に。
彼曰くなんですけど「その女が書き込んでるんじゃないか」って言われて。

実は、ある時期までその話、コピペされて出回ってました。
で、久々に調べてみたんですよ。そしたらね、全部削除されてました。これ、どういう事なんですかね。
携帯サイトとかアドレス控えてたんですけど、全部閉鎖されてるんですよね。これ、どういう事なんですかね。

でもね、こうしてまた、話しちゃいましたね。

もし、皆さんが住んでる家とかね、マンションのポストに
『あかいおんなにきをつけろ』
って、拙い文章のビラが入っていたら、近くに霊感がある人をチェックしといた方が良いと思うな。

禍話/赤い女のビラ

——————————————————————————

【動画もあるので良かったら見てね~】

コメント