この話、お見舞いに行った奴から聞いた話なんですよね。病院に行ったわけじゃないけど。
仮にA君としますね。
A君って奴がね、友達のB君って奴から「先輩ん家、一緒に行ってくれねぇか?」って誘われたの。
「様子見て来てくれって頼まれたんだけど、一人だとさぁ、気まずいんだよ」って。
A君って大学浪人して入ったから少し年上なの。同級生だけどB君とは。
だから「お前とは1コ上くらいなんだけどさー。会ったこともない人で、申し訳ないんだけど付いてきてくれないかなー?」
って言うから。
「え、何、何、誰?」
「○○さんて言うんだけどー…」
まあ、全然知らない人でね。
「まあ、会って様子見てくるだけだから、5分位、10分も掛からないから。申し訳ないけどさー」
「え、そんなんお前。お前がいるサークルの話だったらさー、サークルの連中で行けばいいじゃん」
「みんな気味悪がって行かないんだよねー。だから、俺が近所だから押し付けられちゃったんだよ」
(気味悪がって!?)とか思いながら。
結局「殺○事件があったって廃屋に、半日くらい一人でいた結果おかしくなってる」って言うから
(行きたくないー!)って思ったんです。
「ヤダー!」って言ったんだけど。
「でも一人で行くのもなー、でも行かなきゃいけないしなー…頼むよー」
B君、滅多に無理なお願いしない奴だし、今まで色々助けて貰ってるからなーって思って。
「じゃ、じゃあ…一緒に行くだけだしなー。俺何にも喋らないよ」
「全然、喋んなくていい。いてくれればいいから。お前ガタイでかいし」みたいな。
そういう意味でもね、生理的にヤバいって事なのかな?って思って、行きがけに聞いてみたんですって。
「どういうことなんだ?それは」って聞いたら。
その、肝試しでね。行こうってなった時に、あまりにも怖いから昼行こうってなったんです。
噂によると、頭でっかちな夫婦がいたんですって。
要は、自分達は頭がすごく良かったんだけど、頭の良い人、即ち、教えるのが上手い人ではないよね。
で、息子が大学2浪しちゃったんです。
でも理解できないんですよ、その夫婦からしたら。頭でっかちだから。
「どうして自分達の子供なのに出来ないんだ!」
「え、出来るでしょ?」みたいな感じの夫婦だったらしいんです。
で、息子おかしくなっちゃって、夫婦を○した。
それ以来、10年位かもっと前に起きて『事故物件なので誰も借りてない。誰も寄りつかない家』
ってのに行ったそうなんですね。
で、昼間行ったんです、怖いから。
行って、色々見て回って。掃除はしてあるのかな?って感じ。
そりゃあ業者がね、一応次の人に入ってもらうのに綺麗にしとかないとね。事故物件とは言え。
一階の奥の部屋が、床が明らかに綺麗。年代が違うの。他の部屋と。
(あ、ここだ!)と思ったら。
その問題の先輩が「へえー」って言って、自分だけ奥に入って行っちゃった。
(えー、入っちゃった…)と思って。
もうみんな怖いから。帰ろうって。一階の他の所見て回って、奥には入りたくない。もう帰りましょう!ってなった。
でも、先輩だけ「もうちょっといるわ」って。
奥に座って、部屋の中を見る感じで胡座かいて座って。
「俺、もうちょっといるわ」
何こいつ悠然としてんねん!って思ってたけど。
「いや、俺いるわ」って言って。
「何でですか?」って聞いても「いや、いいからお前ら先帰れ」って。
わけも分からず、(霊感キャラ?剛の者キャラなの?!)とか思いながら帰ったけど、
その先輩、結局、半日くらい居たらしくて。
心配してメールしたりしてわかったんだけども。
それ以来、授業も来ないし。言ってることも支離滅裂になってきちゃったりしてて。
「『ちょっと行ってみてくれ』って言われたから会いに行くんだよ」って言うから、
(やだなー)って、(聞かなきゃ良かった…)って思った。
で、行ったんです。
「あそこのアパートの二階ですよ」って。安いアパートで。
「あそこの部屋って201号室なの?」
「あ、はい。そうですよ。ほら」
「ドア開いてるね」って。
暑くもない季節なのにドア開いてるって言うんですよ。がら空きなんですよ。
「え?」
「暑がりなの?」
「いや、違いますね」
その部屋に行ったんです。
もうインターホン押さなくてもいいじゃないですか。ドア開いてるから。
「先輩。おおう、先輩!」って、B君が驚いてたので「何?」って見たら、
玄関の所に先輩が座ってたんです。
「おう」って。
玄関向いて胡座かいてたんです。
「あのー、ちょっとみんな心配してるんですよ」
「ああ、ごめんな」って。
全然こっち見ないんですよ。
A君とB君の方見てなくて、自分達の後ろ見てるんですよ。気持ち悪くなってきて。
急にね「まあ、立ち話も何だから、中来いよ」って。
(そこは話聞くんだ…)って思いながら、玄関の先の畳の部屋に通してもらった。
部屋にはテーブルが会って、自分達は玄関を背にして座って、先輩も座った。
でも先輩は、ずーっと玄関見てるんです。
あんまりトークも進まないですよね。
先輩が冷蔵庫に行って麦茶とか出してくれるんですけど、でもずーっと目は玄関を見てる。
何なんだろう?って思いながら見てたんだけど。
「あの、そう言えば先輩。なんか会ったんですか?」ってB君が聞いた。
「俺ねー、あの話嘘だと思うんだよね」って、急にね。全然視線を玄関から動かさずに。
「え、嘘?」
「だから、受験でノイローゼになった子供が、両親殺したの。あれ嘘だと思うんだよね。
死んだのはね、若い女だよ」
「え?何言ってんですか」
「俺さー、調べたんだけど色々。例えば、ヤバい村だとかね。ジェイソン出るとかフレディ出るとか
バカバカしいような噂がある地域ね。調べてみると過去に全然別件の悲惨な事件が起きてることがある。
そういう悲惨な事件があったことは事実だけど、それを伝播していくうちに、
『起きたことは事実だけど、その事実は隠したい』例えば違う話が入ってきたりとかして。
例えばジェイソン村とかそうらしいんだぜ」
って視線全く合わせずに言うから。
「はあ。そうなのかもしれませんね。で、何で死んだのが若い女だってわかるんですか?」
「俺さ、奥まで入ったろ?」
「入りましたね」
「出ようと思ったらさ。廊下をな、俺達以外の奴が行ったり来たりしてるんだよな。お前ら以外の奴がな。若い女なんだよ」
「ええ…」
「あの時、野郎ばかりで行ったろ?一瞬だから、誰か付いてきたのかな?と思ったんだけど違うよな。
しかもお前、あんな顔とか身体が垂直だったら普通歩けないだろ。なのに廊下を行ったり来たりするんだよ。うわ!って思ってさ。俺出られなくなっちゃってさ」
「え、あ、あの…何言ってんですか」
「で、やばい!と思ったんだけど、どうやら俺だけにしか見えてなかったんだよ。
お前ら普通に『何も怖くないな』とか言ってるし。
でも俺、見えるからさー。駄目だろ。多分さ、俺だけ奥まで行ったろ?
奥まで行った時に、普通に床が張り替えてあったんだけど、あるラインを超えた辺りで何か踏んだって気がしたんだよ。
床が何が変わったってわけじゃ無いんだよ。でも何か踏んだ感触があって。
でも何も踏んでないけどなーって事があったんだよ。
その時に多分俺は、一線を超えちゃったと思うんだよ」
「先輩何言ってんですか」
「だからそういう事なんだよ。俺にしか見えてない女が廊下を行ったり来たりしてるわけだよ」
うわ、怖いと思って。
B君はもう、その時、現場に行ってるわけだ。怖くて黙っちゃったから、仕様がなくA君が
「その、つまり…あなたには見えてて、こいつらには見えてない女が廊下を行ったり来たりしていて
部屋から出られなくなったんで、お前ら先帰れみたいになったんだって事ですか?」
「ま、そういう事だね。あんまり迷惑も掛けられないからね。踏んじゃったのは俺が悪いもん」
そう話してる時も全然視線合ってないんです。
「でさ、はっきり見えちゃうとさ。後々考えたらよ。半日経ってやっとわかったけど。動き方に規則制があったんだよ。
でも目の前でこうね。5m以内の距離でああいう、身体がぐちゃぐちゃになってる奴に動かれると、
そういう規則制を見出そうとか思わないよ。ヤバイよ」って言うんです。
「はあ…」
二人共、もうその女がどんなだったか聞きたくないんですよ。
「それで何とかわかって。『左行ったらしばらく何秒かいないから』とかわかって出られたって事なんですかね?」
「うーん、段々わかってきて、まあ、おっしゃる通り、右行って何秒、左行って何秒、ってのがわかって。
その時、俺思ったんだよね。『この女、何で部屋に入って来ないんだろう?』って。今俺がいる部屋に。
俺に対して気が付いてないのかもしれない。この女は。
じゃあ行けるのかな?でもそんなわけないよな。多分この部屋が現場なんだし、現場に知らない奴が座ってるんだし、
多分、何度か目は合ってるはずなんだし、気づいてるに決まってるよなーって思った時に、俺髪長いだろ?
後ろ髪をすって撫でられたんだよ。気づいてるに決まってるよねー。そりゃ気づいてるに決まってるもん。
あいつな、俺がそう考えるまで待ってたんだよ。
絶対この女気づいてるけどわざと、廊下を行ったり来たりして、俺が気付くまでな、その女待ってたんだよな!
そっから記憶無いんだわ」
「え、大丈夫だったんですか?」二人共思わず聞いた。
「いやー見てよ」って。先輩の足見たら爪が割れてぐちゃぐちゃで。包帯ぐるぐるになってる。
「気がついたらこの家の近くにいたんだけどさ。足酷くて取り敢えず病院行ったんだけどさ。
で、ほら。髪も切ってるだろ?これ自分で切ったんだけど、髪もなんか、触られた場所が腐ったような臭いがして。
その部分だけドブ川に浸けちゃったみたいな臭いがして。だから切っちゃってぐちゃぐちゃになってるんだけどー」
「そ、そうだったんですね」
「だから、今も、そういう風に思ってるって事かな!」って言うんです。
「だから、今も、そう思っちゃいけないから。そう思っただけで来るから。こうやってこう、その可能性を俺は考えてないよって、アピールしないと来るから」
すごい言ってくるんです。
「うわ…!」って二人共反射的に後ろを振り返ったんです。
誰もいないんですよ。
「だ、誰もいないじゃないですか。やめてくださいよ」A君とB君が言ったら。
先輩が相変わらず自分達を見ない感じで。
「いいなー!いいなー!」って言うんですよ。
手をプルプル震わせながら。
「羨ましいなー!」って言うんですよ。
(もう、怖い!)
(もう、帰ろ!帰ろ!)ってなって。
「あの、もうね。そういう事でしたら」ってよくわからないまとめになって。
B君が「コップ洗いますよ!」って。洗い場に持っていって。
先輩も「いいよいいよ。洗うよ洗うよ」って目を玄関から離さない感じで追いかけて。
二人共台所に行っちゃったんです。
A君だけ残って「気持ち悪いなー」って。
でも絶対玄関には誰かが外廊下を往復してるとか無いし。
と思った時に。二人が奥に行ってコップを洗ってるでしょ。
ちょっと音が静かなの。玄関側は。
カチカチカチカチカチカチカチカチいうんですって。
気づかなかったの、さっきまでは。
小さくカチカチいってる。
え、これ何?ってなった時にふと、インターホン見たんですよ。電源抜いてるんですよ。先輩。
自分達が来た時はドアが開いてたからインターホン押さなかったんだよ。だから気づかなかった。
インターホンの電源が抜けてる事に。
誰かが電源の抜いてあるインターホンをカチカチカチカチ押してるんですよ。
うわっ!て思ってそこに気付いた瞬間ですよ。
それまで見えなかったのにインターホンの方、玄関を見たら、下の方の隙間から女の足が見えるんですよ。
何故か女ってわかったらしいんですよ。
女だ!って思わず固まっていると「洗い物終わりました。帰りましょ」ってB君達が戻ってきた。
「おう、帰ろう」って。すごい怖かったけどふって見たら誰も立ってなかった。良かったって思って。
階段降りながら「お疲れー」って、先輩と別れたんだけどドアは開きっぱなしで。
A君はもう怖いわけ。足見えちゃったから。女の人のね。
「いや、そもそも俺、建物に行ってないし。あの人に取り憑いてるわけだから。そんなわけない。
俺には関係ない関係ない。絶対ない絶対ない。あの人に取り憑いてるんだから。俺には絶対に関係がないよな!」
って言ったら。
『本当に?』
って右耳で言われたんですって。
うわっ!ってなった瞬間に両手の肩から肘までの部分をぎゅっと握られたって言うんです。二の腕辺り。
握ってくるのが異様に細長い指なんだけど、指なんだけどずっと…
「これはB君だ!これは絶対B君だ!前をB君が歩いてるけどこれはB君だ!」って必死に思ったんですって。
「絶対にこれはB君で、B君が冗談でやってることなんだ!」
目を瞑ってね。前を本当はB君歩いてるんですけども。
「絶対B君だ!だってあの女のお化けはあの先輩に取り憑いてるんだもん!」って言ったら今度は左から
『本当に?』って聞こえるんです。
って言う話をしてくれたA君、ガリガリに痩せてて。
何か、お見舞いに行った時に、掻い摘んで途切れ途切れに聞いた話がこれなんですって言われました。
禍話/待っていた女
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